「曜変天目茶碗」をご存じでしょうか。曜変天目茶碗は、完成品としては世界に3つだけしか確認されていない茶碗です。
しかも、その貴重な3つの茶碗は日本に存在。すべてが国宝に指定されています。
今回はそんな「曜変天目茶碗」についてご紹介します。
曜変天目茶碗とは?
「曜変天目茶碗」は、中国・南宋の時代に、現在の福建省にあった「建窯」で作られたと言われる茶碗です。
特徴は、器の中に広がる銀河のような模様。まさに星が輝いているような「星紋」と呼ばれる斑紋が浮かび、その周囲は、青や白の光で縁取られています。さらに見る角度によって輝きが移動、光を当てると虹色の輝きになることも。
通常の天目茶碗は、焼き上げるときに鉄を含んだ釉薬を使用するため、黒一色の発色になるもの。しかし、「曜変天目茶碗」の場合は、天目茶碗が焼き上がるとき、何らかの条件が重なることで、この不思議な輝きが生まれると考えられています。
なぜこのような光が生まれるのかについて、現在に至るまで数多くの研究が行われてきましたが、そのメカニズムは未だに解明されていません。
なぜ「曜変天目茶碗」は3つしか存在しない?
世界中で確認されている「曜変天目茶碗」は3つだけ。では、なぜ「曜変天目茶碗」は3つしか存在しないのでしょうか。
有力な説としては、「曜変天目茶碗は中国では不吉の前兆であると考えられたのではないか」というものがあります。つまり、偶然生まれた不可思議な模様がある「曜変天目茶碗」は、誕生と同時に恐れられ、壊されたのではないかという説です。
実際に、「曜変天目茶碗」が作られた建窯の跡地では、「曜変天目茶碗」の破片が見つかっています。しかし、「曜変天目茶碗」の模様に魅力を感じた誰かが、破壊から保護、それが日本に伝わったのではないかとも考えられます。
ただし、2009年には中国・杭州の工事現場から「曜変天目茶碗」の一部と見られる陶片が見つかっています。この場所は、かつて宮廷の迎賓館のような施設があった場所。そのため「曜変天目茶碗」は不吉なものではなく、逆に貴重なものとして宮廷貴族らに用いられていたのではないかとする説もあります。
現存する3つの「曜変天目茶碗」
世界に3つしか存在しない「曜変天目茶碗」。そのすべては、日本国内に存在しています。
ここからは、貴重な3つの「曜変天目茶碗」についてご紹介します。
まずひとつめは、東京都世田谷区の美術館・静嘉堂文庫が所蔵するもの。「稲葉天目」と呼ばれるこの茶碗は、現存する「曜変天目茶碗」の中でも最高の品とされています。
これはもともと、江戸時代に徳川家が所蔵していたもの。三代将軍徳川家光の乳母である春日局の子孫、稲葉家に代々伝わったと言われています。
現在、常設展示は行われていませんが、東京丸の内の三菱一号館内にある「三菱センター デジタルギャラリー」でデジタルコンテンツとして閲覧が可能です。
二つ目は、大阪市の藤田美術館が所蔵するもの。特徴は、「曜変天目茶碗」の特徴的な模様が器の外側にも表れている点です。
これは徳川家康より、水戸徳川家に伝わったとされる茶碗です。
なお藤田美術館は現在建て替え工事に伴い休刊中で、2022年4月のリニューアルオープンを目指しています。
三つ目は京都の龍光院が所蔵するもの。現存する「曜変天目茶碗」の中で、「幽玄の趣」があるとして高く評価されています。基本的には非公開ですが、ごくまれに特別展などで公開されることもあります。
四つ目の「曜変天目茶碗」?
世界で3つしかないとされる「曜変天目茶碗」。しかし、実は四つ目の「曜変天目茶碗」が存在します。
それが滋賀県甲賀市のMIHO MUSEUMが所蔵するもの。この「曜変天目茶碗」は、加賀県の前田家に伝えられたものです。しかし、「曜変天目茶碗」の特徴である模様がごく一部に限られていることから、これを「曜変天目茶碗」については様々な議論があります。
そのせいもあり、他の3つが国宝に指定されているのに対して、このMIHO MUSEUM蔵のものに関しては、重要文化財にとどまっています。
さらに、2016年には、テレビの鑑定番組で新たな「曜変天目茶碗が出品される!」と話題になったこともあります。
テレビに出演した鑑定家は、国宝である「曜変天目茶碗」と同様のものとしましたが、専門家から鑑定結果に反対する声が続出。
それを受けて、所有者は大学に鑑定を依頼。しかし、明確な結論は得られませんでした。
その後、この茶碗について、中国の陶芸家が「土産物として自分が作った」と証言したことなどもあり、現在では、「曜変天目茶碗ではない」というのが一般的な結論となっています。
このように、ときに話題を巻き起こすなど、様々な人を惹きつけてやまない「曜変天目茶碗」ですが、最近では復元に向けた試行錯誤が進められています。
藤田美術館が所蔵する「曜変天目茶碗」のX線による化学分析も行われ、少しずつその秘密が明らかに。さらに全国の専門家が釉薬の調合や窯の中の温度管理などで相違工夫を重ねたところ、「曜変天目茶碗」に近い茶碗も誕生しています。
しかし、その魅力は本物にはまだまだ及びません。展覧会や特別展などで実物を目にするチャンスがあれば、ぜひ自分の目でその魅力を確かめてみてはいかがでしょうか。