多くの乗客や貨物を運べることで一世を風靡したジャンボジェット。現在では、経済性などの観点から小型の飛行機が主流となりつつありますが、大きさや迫力など、飛行機ファンの間では根強い人気を誇っています。しかし、そのジャンボジェットすら大きく上回る、超巨大飛行機が存在します。それが今回ご紹介する世界に1機だけの超巨大飛行機「アントノフAn-225ムリーヤ」です。
「アントノフAn-225ムリーヤ」とは
「アントノフAn-225ムリーヤ」は旧ソ連時代のウクライナで開発された超大型の輸送機です。「ムリーヤ」とはウクライナ語で「夢」を意味する言葉ですが、「アントノフAn-225ムリーヤ」はまさに技術者の夢が詰め込まれた飛行機です。
その特徴はなんといっても大きさ。全長は約84メートルと、ジャンボジェットの中でも破格の大きさから「スーパージャンボ」と呼ばれた、エアバスA380の全長73メートルを大きく上回っています。
さらに荷物を積まない状態での機体の重量は285トン、荷物を積載して離陸が可能な最大重量は640トンと、空前絶後の大きさ。そのため、「世界最大の飛行機」「史上最も重い飛行機」などと呼ばれることもあります。
宇宙開発が盛んだったソ連時代には、「アントノフAn-225ムリーヤ」の機体の上にスペースシャトルのようなソ連の多目的宇宙船を載せ、そこから打ち上げるという構想もあったことを考えれば、どれほど巨大な飛行機なのかをイメージしやすいかもしれません。
では、なぜそれほど巨大な航空機が開発されたのでしょうか。
そもそも、「アントノフAn-225ムリーヤ」が開発されたのは、ソ連の宇宙船「ブラン」を組みたて場所からカザフスタンのバイコヌール空軍基地まで輸送する必要があったため。宇宙船を運搬できる大きさの飛行機は存在しなかったため、非常に巨大なサイズの「アントノフAn-225ムリーヤ」が誕生しました。
その巨体を支えるために、左右両翼の翼にはジェットエンジンが三基ずつ配置。また、今日大型の機体の着陸を行うタイヤは、なんと20個が装備されています。
「アントノフAn-225ムリーヤ」が初めて飛行したのが1988年。当初は宇宙船運搬だけでなく、様々な用途が考えられていましたが、その直後となる1991年にソビエト連邦が崩壊。社会と経済の混乱により、「アントノフAn-225ムリーヤ」の開発・運用に伴う予算が打ち切られたことで、機体はウクライナの工場に放置されることとなります。
10年ぶりの復活
工場に放置された「アントノフAn-225ムリーヤ」は、飛行の機会もなく、補修用の部品が外され、スクラップ同然となっていました。
しかし、1999年に再び「アントノフAn-225ムリーヤ」に脚光が当たります。当時、ウクライナの航空会社であるアントノフ航空が大型貨物飛行機を利用した運輸ビジネスで成功、さらに多くの荷物を運べる巨大な飛行機が必要となりました。
そこで注目されたのが「アントノフAn-225ムリーヤ」。1年以上の改修や、機体の強化を行い、「アントノフAn-225ムリーヤ」は再び現役の飛行機として就航することとなりました。
日本の空港にも着陸
大型の貨物運搬用の航空機として、主にヨーロッパなど大西洋方面で飛行することが多い「アントノフAn-225ムリーヤ」。
しかし、実は何度も日本の空港にも着陸したことがあります。
最初に「アントノフAn-225ムリーヤ」が日本の空港に着陸したのが2010年2月。このときは、前の月に発生したハイチ大地震の復興支援として、重機などを現地まで輸送する必要があり、「アントノフAn-225ムリーヤ」に白羽の矢が立てられ、防衛省がチャーターする形で、成田国際空港に着陸しました。また、同じ2010年の6月には、給油の目的で中部国際空港に着陸しています。
また、その後の2011年には、3月に発生した東日本大震災の支援物資を輸送する目的でフランス政府がチャーター。150トンの支援物資と共に、成田国際空港と仙台空港に着陸しました。
もっとも最近では2020年。新型コロナウイルスに関する医療物資を輸送する目的で中部国際空港への着陸を行っています。
幻の二号機の存在
世界でただ一機しか存在しない「アントノフAn-225ムリーヤ」ですが、実は二号機が存在しています。
「アントノフAn-225ムリーヤ」の二号機があるのが、ウクライナの首都であるキエフ郊外。
そこでは、組み立て途中の二号機が眠っています。
「アントノフAn-225ムリーヤ」の二号機は1989年に製造が開始されたものの、ソ連崩壊の影響を受け、1994年に一旦製造が停止となり、そのまま遅延が続いた後、2009年には計画自体が放棄されました。
しかし、現在も組み立て途中のままで保管され、胴体や主翼など、すでに全体の六割以上が完成していることから、資金調達を行うことができれば、すぐにでも組みたてが再開される可能性も高いと言われています。
現在、運輸の世界では巨大な航空機による貨物輸送の需要は高まっていると言われているため、近い将来二機の「アントノフAn-225ムリーヤ」が空を飛ぶことも夢ではないのかもしれません。