小さな空間の中に様々な技術やテクノロジーを詰め込んで作られる時計。高級時計となれば、その価格は1千万円以上は当たり前ですが、最近では投機目的での取引も盛んで、価格はますます上昇しています。
その中でも、30億円を上回るという驚くべき値段が付けられたのが、今回紹介する世界でたったひとつだけの時計、「パテック・フィリップ グランドマスター・チャイム ステンレススチール仕様」です。
パテック・フィリップとは?
「パテック・フィリップ」は、1839年にポーランド人のアントニ・パテック氏とフランチシェック・チャペック氏によって設立された高級時計メーカーです。
パテック氏とチャペック氏はスイスに移住、その後、フランス人のジャン・アドリアン・フィリップが入社、チャペック氏が会社を去ったことから、現在の社名となりました。
「パテック・フィリップ」は「ヴァシュロン・コンスタンタン」、「オーデマ・ピゲ」とともに世界三大高級時計に数えられます。どれだけ古い時計でも修理を行う「永久修理」をモットーに、多くの有名人に愛されてきました。
そのユーザーは、アインシュタイン、ワーグナー、チャイコフスキー、ウォルト・ディズニー、ビクトリア女王など多岐に渡っています。
パテック・フィリップ グランドマスター・チャイムとは
世界中のセレブに愛される、世界ナンバーワンの時計ブランド、「パテック・フィリップ」。
これまで「パテック・フィリップ」は数多くの時計を送り出してきましたが、その中でも最高傑作で、最も複雑な時計と言われるのが「パテック・フィリップ グランドマスター・チャイム」です。
「パテック・フィリップ グランドマスター・チャイム」は独立した裏表2面の文字盤に様々な機能を搭載した腕時計。時刻の表示はもちろんのこと、日送り式の永久カレンダー、4ケタの年表示、ムーンフェイズなど、搭載されている機能の数はなんと20種類。もちろん、名前が示すように、チャイムによるアラーム機能も装備しています。
そんな「パテック・フィリップ グランドマスター・チャイム」は、「パテック・フィリップ」を代表するフラッグシップモデルとして、これまでもたびたび稀少な製品が作られています。
特に有名なのが2014年に、「パテック・フィリップ」の創業175年を記念して作られた「Ref.5175R-001」というモデルです。
回転式のローズゴールドのケースには、すべての面に手作業で彫刻が施されるという華やかさを持ち、内部ではムーブメントに1300を超える部品が使用されるなど、腕時計の歴史の中でももっとも複雑な機構を持つものとして知られています。この「Ref.5175」シリーズは、「パテック・フィリップ」のミュージアムに展示されるものを含めて全部で7本が製造されました。
これだけでも、かなり貴重なものと言えますが、それをはるかに上回る稀少性を持つのが、「パテック・フィリップ グランドマスター・チャイム ステンレススチール仕様」です。これは「Ref.1518」と呼ばれるもので、特徴は何といってもステンレススチールのケースです。
ステンレススチールといえばごく一般的な素材ですが、しかし「パテック・フィリップ」が時計のケースに貴金属以外の素材を使用することはほとんどありません。しかし、このモデルではあえてステンレススチールを使用。それがこの時計の稀少性をさらに高めています。
「オンリーウォッチ」オークションで落札
世界で1本しかない「パテック・フィリップ グランドマスター・チャイム ステンレススチール仕様」は、言うまでもなく時計店で購入できるような品物ではありません。
この稀少な時計は2019年、スイス・ジュネーブで行われたオークションに出品されました。そのオークションの名が「オンリーウォッチ」です。
この「オンリーウォッチ」オークションは、モナコ公国のアルベール2世大公の後援によって2年に1度行われる世界最大規模のチャリティーオークション。
収益の99%は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーという難病治療のための研究資金として寄付され、これまで7000万ユーロ(約90億円)を超える寄付金が集まっています。
その金額もさることながら、このオークションが有名なのは、出品するのが有名な時計メゾンばかりということ、さらにそれだけではなく、それぞれのメゾンは、このオークションのためだけに、名誉をかけて世界で唯一の時計を作り上げて出品します。
オークションには「パテック」フィリップ」のほか、「オーデマ・ピゲ」、「シャネル」、「ブルガリ」といった超一流ブランドが参加。
その中で最高の落札価格を記録したのが「パテック・フィリップ グランドマスター・チャイム ステンレススチール仕様」です。
その落札価格は3100万スイスフラン。当時のレートで換算すると、なんと約34億4000万円。このオークションの総売り上げが3800万スイスフラン(約42億円)であることを考えると、いかに莫大な金額かを知ることができるでしょう。
この最高落札価格は2021年現在も破られていません。技術はもちろん、価格も含めて、まさに世界で唯一無二の時計と言えるのではないでしょうか。