山口伝統工芸品の特徴
山口県は中国地方に属していますが、本州のなかで見ると最西端にあたり、関門海峡を隔てて九州地方とも接する位置にあります。九州地方といえば古代から中国大陸をはじめとする海外とつながり、大規模な古墳に代表される独自の文化を築き上げてきたことで知られています。一方でここ山口県も本州から九州地方へと至るルートの玄関口にあたり、古くからの交通の要衝です。現在も関門海峡に架かる関門橋や関門トンネルは全国的に著名ですが、かつては陸上のみならず船を使った海の交通も盛んであり、時の権力者たちは海外との交易にも熱心に取り組んでいました。
また、室町時代には守護大名の大内氏が京都を模した街づくりを行い、戦乱を逃れて地方へとやってきた公家衆の文化をも採り入れて、「西の京」と呼ばれるほどの栄耀栄華を誇ったこともあります。その後も中国随一の大名である毛利氏が江戸時代を通じてこの地を支配し、藩内で殖産興業を推進したこともあって、さまざまな工芸品が登場するようになりました。
このような地理的・歴史的背景から、山口県内では京都や海外のすぐれた文化を吸収して独自に昇華させた伝統工芸品が多いのが特徴となっています。在地の権力者たちの保護のもとで今日までその巧みな技術が守り伝えられ、なかには法律にもとづく国の伝統的工芸品としての指定を受けたものもあります。
山口県は三方を海に囲まれていますが、内陸のほうは険しい中国山地がそびえる地形であり、良質な粘土や岩石が採掘されていることも、県内の伝統工芸品を考える上での重要なポイントです。こうした資源を素材に生かした焼物や硯などは、美術的な観点からも人気の高いアイテムですが、もちろん実用にも堪える優品ぞろいといえます。
伝統工芸品といえば、実用品や美術品としての側面のほかにも、子どもの豊かな成長を願ったり、または家門に福徳をもたらしたりする縁起物の需要も忘れてはならないところです。現代のように科学技術が発達し、物があふれる時代であればともかく、昔はさまざまな縁起物をつくってその幸運にあやかろうとする風潮も盛んでした。そうした人々の素朴な心情を表現した伝統工芸品も、もちろんこの山口県内には多くみられます。
山口おすすめ伝統工芸品トップ5
大内塗・大内人形
山口県内で生産されるおすすめの工芸品はいろいろとありますが、室町時代に栄えた大内文化を体現する「大内塗」は、外せないもののひとつといえるでしょう。これは大内氏の居館が置かれていた山口市周辺の名産品です。木地を深い朱色に塗った上に、萩の花などの文様を色鮮やかに描き、最後に金箔で大内氏の家紋である大内菱をあしらうのが特徴です。箸やお椀などの什器のほか、夫婦円満を象徴するような丸みを帯びた男女一対の「大内人形」もあります。
萩焼
かつて毛利氏の城下町だった萩市でつくられている「萩焼」は、慶長年間に半島から渡来した陶工によって、長州藩の御用窯として開かれたのがはじまりと伝えられます。江戸時代には楽焼や唐津焼と並ぶ、我が国を代表する茶器として愛好されていました。原料となる土も山口原産のものです。こうした伝統を背景に、近代以降は茶器のほかにも置物や服飾品などにもその技術が応用されています。
赤間硯
宇部市やその周辺でつくられる「赤間硯」は、鎌倉時代からの伝統をもつ逸品で、粘り気があって墨をするのに最適な地元産の赤間石が使われるのが特徴です。実用面で高い評価を得ていることとあわせて、硯の表面にこまかな彫刻がほどこされており、審美的な意味合いでも多くの愛好家を魅了しています。
ふく提灯
下関の「ふく提灯」は、当地を訪れる観光客向けのちょっとしたみやげ品としても人気があります。冬の味覚のふぐちり鍋は全国的に有名ですが、獲れたふぐの皮を丁寧に剥ぎ取って、内側にもみがらを詰めて形を整えた上で天日乾燥させ、そのまま提灯に仕立てたものです。起源は明らかではないものの、昭和のはじめには既に名物となっていました。山口では魚の「ふぐ」のことを、縁起のよい「福」に通じる「ふく」と清音で呼んでいます。
武者絵幟
周防大島の「武者絵幟」は、男の子の初節句を祝って親類縁者が贈るならわしの縁起物のひとつです。現在ではこの種の染物は機械染めをすることが多くなっていますが、ここでは伝統の手染めにこだわり、柔らかな風合いと繊細なタッチを実現させています。知将として名高い毛利元就らの戦国武将をモチーフにした武者絵の迫力は圧巻です。このような幟と同様に、海に囲まれた地域ならではの「大漁旗」の染め付けなども行われています。
まとめ
山口県は昔から海に囲まれた交通の要衝の地としてさまざまな文化が流入し、大内氏や毛利氏といった我が国を代表する大名のもとで栄えた歴史もあって、今でも県内には多くの伝統工芸品が残されています。なかでも大内文化を伝える麗しい大内塗やすぐれた茶器として珍重された萩焼、地元産の赤間石を用いる実用性と装飾性を兼ねた赤間硯をはじめ、縁起物のみやげ品であるふく提灯や男子の健やかな成長を願う武者絵幟などは全国に誇れるおすすめの逸品です。